現代にとってフロイトとは何だろうか(1)理論的変遷概略

 

現代フロイト読本 1

現代フロイト読本 1

 

(本記事では上記の『現代フロイト読本1』所収の藤山直樹氏『フロイトの著作について』を引用しています)

フロイトの理論的変遷

岩波書店から刊行されている『フロイト全集』は全23巻にも及ぶ。その中で全てのフロイトの論文に目を通すことはなかなか難しい。『フロイト全集』は人文書院の『フロイト著作集』とは異なり、年代ごとに編纂されているのが特徴だ。藤山直樹氏はこの論文において、フロイトを3つの時期にわけて論じている。それは以下の3期である。

第一期 精神分析以前のフロイト(1897年まで)

第二期 古典理論のフロイト(1910年まで)

第三期 後期理論のフロイト1920年以後)

藤山直樹フロイトの著作について(p14-19)』より

 第一期 精神分析以前のフロイト

この時期における最も重要な論文は『ヒステリー研究(1895年)』だろう。このブロイエルとの共著は「精神分析のはじまりの書」として重要な文献である。またラカン派で重要視される『科学的心理学草稿(1895年)』もこの時期の論文である。またこの時期が「精神分析以前」であるということについて藤山直樹氏は以下のように語っている。

精神分析を特徴づける基本的原理にはまだ到達しておらず、フロイト自身のパーソナルな分析と理論や実践とがまだ関連づけられていなかった。その意味で、この時期の彼を精神分析家であると呼ぶには無理があるだろう。 

藤山直樹フロイトの著作について(p15)』より

第二期 古典理論のフロイト

一般にイメージされるフロイトというのは多くの人にとってこの時期だろう。まさに『夢判断(1900年)』が刊行された時期でもあり、フロイト理論の華と言っていいものはこの時期に多く発表されている。

フロイトは晩年になっても『夢判断(1900年)』、『性に関する三つの論文(1905年)』を自身の最も重要な著作と考えていた。

藤山直樹フロイトの著作について(p18)』より 

 またこの時期のフロイトには症例研究があり、その他にも一連の技法論集が出たのもこの時期である。

フロイトはさらに『精神分析入門』において、神経症が本能欲動の固着と退行によって形成されるモデルを集大成し、本能論と病理論を完全につなぎ合わせることに成功する。

藤山直樹フロイトの著作について(p19)』より 

藤山氏はここでこの時期までのフロイトの考えをほぼ要領よくまとめたものが『精神分析入門(1916-1917年)であると述べており、いわゆる第二期のフロイト理論なるものの集大成と言えるだろう。また、ラカン派のミレールは「ラカン理論というものは、『精神分析入門』の第17講と第23講の注釈である」と述べている。それだけにこの『精神分析入門』という一連の論文は重要視されている。

 第三期 後期理論のフロイト

この時期を代表する論文は『快原則の彼岸(1920年)』、『自我とエス(1923年)』、『制止、不安、症状(1926年)』である。

この時期のフロイトは、死の本能論に代表されるように全体的に悲観的であり、さらには精神分析の治療効果に対しても強い疑念を『終わりある分析と終わりなき分析(1937年)』で表明し、治療的な楽観主義に警告を発している。

藤山直樹フロイトの著作について(p21)』より 

現代のフロイト

以上の様にフロイトの変遷を藤山直樹氏の論文をベースにして論文ごとにまとめて見ていった。そして私達はここから考えなければいけない。それは「現代にとってフロイトとは何だろうか」ということだ。それは「現代においてフロイトを読む意義とは何か」とも言い換えることができる。それに対して『現代フロイト読本1』の中で北山修氏は興味深いことを述べている。次回は、その問いについて考えていきたい。